ティラノスクリプトでコマンド選択式ADVを作る方法

概念だけ。
ティラノスクリプトは基本的にノベルゲームエンジンなので、多少の分岐はしても基本的にオープニングからエンディングまで一方向へ流れていくゲームを作るためのものなのですが、コマンド選択で複数エリアを移動したり戻ったりアイテムをゲットしてフラグ立ててから別マップへ移動したりといったコマンド選択式ADVを作ることも可能です。

宣伝作例:http://ww3.tiki.ne.jp/~ri-msx/zero/gladv/

これ、内部的にはノベルゲームの同じシーンを延々ループさせてるイメージです。背景グラフィック表示させて、立ち絵表示させて、テキスト表示させて、コマンドを受け付けるっていうミニシーンのみ。以上、みたいな。
そんでそのシーンの先頭では、まずマップの場所を管理する変数を判定して、その数字が例えば1なら中央エリア、2なら北東エリア、3なら真北、4なら北西…みたいな分岐をさせます。
分岐先でそれぞれの場所に合った背景や立ち絵、テキストを表示させる。で、コマンド入力を受付。
コマンド入力されたらそれぞれのコマンドの処理へ飛ばして、そこでもマップ場所管理変数を見て分岐する。例えば「調べる」コマンドの処理へ飛んだらその先頭でマップ場所変数を見て、中央エリアだったならこの会話テキストを表示して、また最初のシーン先頭へ飛ばす。するとまた中央エリアの背景とか再表示されてコマンドが再受付される、と。こうすることで複数のシーンがあたかもあるように演出できるわけです。
アイテム取得有無とかもそれぞれ変数を用意して判定→分岐させれば大抵狙った通りにシーンを進めさせることが可能なはず。HPや攻撃力の管理変数とかも用意すれば戦闘シーンもいける。めんどいけど。


基本的に画像表示→操作受付→分岐→ループをさせることができるならどんなゲームエンジンでもADVは作れるはずだし、タイマーで適切なタイミングを管理できればアクションゲームも理屈上は作れるはずです。めんどいしそれぞれ特化したゲームエンジンをちゃんと選んで使えよって話ですけども。そしてやっぱりプログラミングの基本は変数管理だなと思います。変数は偉大!

「世界には2種類の人間しかいない、搾取する者と搾取される者だ」

っていうような理屈は完全に正しくて同時に間違ってもいると思う。
論拠は各々色々あろうけど、この言説を用いてる人自身の定義で「搾取する者」と「搾取される者」を定義して判定して分けてしまえるなら、そりゃ必ず正しいことにはなるだろう。
そして逆に、その定義や判定に矛盾が発生すれば間違ってることにもなる。

何かを少しでも奪うことが搾取であるなら、食事や呼吸はおろか、死んで土に還るのすら搾取と定義できなくもない。
何かを少しでも奪われることが搾取であるなら、精子が卵子に取り込まれた瞬間に両者の自由や未来は奪われてると言えなくもない。
異なる立場の両者が何らかの価値あるものを行き来させることは搾取に当たらず例えば「取引」なのだ、とかって言い逃れることもできるだろうけど、それなら「搾取と取引の線引きはどこ?」とかって別次元の問題が発生して議論は多分永遠に終わらない。無理矢理終わらせようとしない限りは。

例えば資本主義社会において労使関係で資本家側が搾取する側、労働者が搾取される側だとかって定義するのは簡単で分かりやすくて、ある場合にはとても有益だろうとは思う。
けど多分、労働者は資本家から一切何も奪ってないというわけではない。時間やモノやカネや労力や場所や思想だとかを互いにやりとりするからこその労働な訳で。
もちろん、資本家は労働者から確かにずっぽり搾取してはいるのだけれど。でもそれが全てというわけじゃないのも正しい筈だ。
それに労働者に対して「資本家の定義」が完全に当てはまらないこともなく、資本家だって誰か(国とか、より大きな企業だか)に労力として使われてないとも言い切れない。
あらゆる定義づけにはその境界線が必ず存在し(※そもそも、その線引きをするのが「定義」なるものの役目だし)、そしてその線は実際にはある程度の太さで曖昧なグレーゾーンを必ず残す。境界を操る程度の能力を持つ化物は、何のことはなくて、誰も彼もがそうなのだから。

境界線をハッキリ引いて、集団をある要素Aと別の要素Bとに分ける論法は二分法と言って、意図的に悪用すると分かりやすく人を誘導できる割にアラも出しやすかったりするっぽい。
搾取する者と搾取される者、
正しい側と正しくない側、
攻め込んでいる方と攻め込まれてる方、
加害者と被害者、
一見ハッキリしてるはずの問題が立場や見方によって紛糾する様は過去も現在も繰り返し行われてる。
なぜならそれは、境界が実はハッキリしていないから。同時に、ハッキリしているようにも見えるからでもあるのだけれど。

だから、「境界のあちら側とこちら側は確かに存在してて、同時にそれは不確かでもある」っていうことを頭の隅の方にもやもやと漂わせておいて、
「どちらでもない」が確かに存在するときも普通にめっちゃある
っていう、ある意味卑怯な逃げ道も奪わないでいる優しさを、できたら失いたくないなと思う。

卑怯だってことは解ってるつもりだけども。

僕の夢

3年6組 Ri-さむMSX。

僕の夢は会社をやめることです。


なぜそうしたいかというと、単純に可処分時間がもっともっとほしいからです。
働きたくないからです。
働くのがめんどいからです。
仕様を考えるのも、仕様を解析するのも、誰も読みやしない仕様書を書くのもいいかげんうんざりだからです。

この夢をかなえるためにはどうすればいいでしょうか?
答えは簡単です。会社をやめればよいのです。
そうすれば夢はかないます。
でも夢をかなえた後はどうなるでしょうか?
お金がもらえなくなります。困ります。生活できません。
なのでアルバイトをしなければいけません。
うまいこと良い職にありつければ、仕事にかける時間は今より減るでしょう。ばんざい!
お金も減るでしょうが知ったことではありません。
タイムイズマネーと言うではないですか。自由な時間が増えるならお金が減るくらい何だというのでしょう。

と、ここまで考えてもっと楽なルートとルーチンを発見しました。
要は、僕は、働く時間を減らしたいのです。お金が減るのは全然構わないから時間を得たいのです。
それはつまり、お金と時間のトレードです。もしそれができるなら、会社をやめる必要はありません。
会社をやめるための煩雑な手続きにかける手間や不安をショートカットして、欲しい結果だけが得られます。
ばんざい!!
なのでそうしたいです。そうします。
残業なんかもう全部断るわ!!
休日出勤なんてナンセンス! NO!!
NOと言える日本人になります!! 納期も信用も知ったことか!!!
そして会社の事なんぞ一切省みないダメ社員に、僕はなる!!!
今もそうだけどな!!!!!

そういう気構えでまた明日も会社へ逝くのです。
定時で帰るまでの時間を耐えるのです。
本当に、大手を振って退職できるその日まで……。

魔界大冒険について

娘がリメイク版を観てたので原作を再読しました。
・大長編初期の物語で、全体通しても結構珍しい勧善懲悪な冒険譚。なんせ悪魔族はれっきとした生物で魔界はひとつの惑星丸ごとなのに、それを結果的に壊滅させて根絶やしにしちゃってる。もしもボックスによる「IF」の世界とは言ってもパラレルワールドとして存続することもまた明言されてる世界であるので、そのつもりがなかった&正当防衛とは言っても結構すごいことをのび太達にやらせてる。
・勿論その功罪について云々するような物語ではないので、その辺はしれーっと流して、めでたしめでたし→満月博士邸でバーベキューのひとコマで流す作劇。つまりこの話の主軸に種族間戦争の是非みたいなテーマはなく、その辺は後発の「竜の騎士」とかで扱われることになります。
・じゃあこの話のテーマは?って思いました。「F先生がどう考えてどう提示したか?」っていうのを読み解いて推理していくのは無理っぽいので、とりあえずその辺ガン無視して個人的な着眼でのみ語ると「世界の否定は可能か否か」みたいなのがまずあるのかなぁと。
・科学文明を基盤として成り立ってる現代世界を否定したくなったのび太が、魔法文明の世界を試してみる。しかし結果は同じだった。魔法世界には魔法世界なりの世知辛さや苦難があり、それを思い知ったのび太は仲間とともに冒険に乗り出す。しかしその結果は…敗北。ならばと再度の世界改変にタイムマシンを使用して挑むも、それも失敗。けれど間一髪で未来からやってきたドラミちゃんの手で再改変の機会を得てめでたしめでたし…ではなく、更にそれを否定。そして再度の挑戦を経て今度こそ勝利したのび太は、一抹の寂しさを味わいながらも元の世界に帰る。…こういう物語構成に要約していいのかなと。
・その他に大魔境でやったタイムパラドクス的どんでん返しを序盤から丁寧に伏線張って構成してあったりして、かなり映画映えを意識したエンターテイメントであったりとか、魔法と言いながら基本は念力で超能力っぽかったり、魔界は異次元とかじゃなく異星(到着まで一ヶ月!)だったりするので、かなり星間戦争的SFな道具立てで、作劇的には堅実なつくり。それでいて魔界での冒険はローレライ的な人魚の海や樹海を思わせる平原と森とかってファンタジー色も十分。銀のダーツを胸にっていう悪魔退治の王道や石化メデューサの怖さ、魔法戦の迫力も素晴らしい。
・さて、キモの話。ドラミちゃんがデウスエクスマキナ(文字通り)的にやってきておしまい…じゃない! っていう有名な仕掛けで、この物語はハッキリ「世界の再否定」を否定して決着に向かうわけです。恐ろしい強大な、倒し方のわからない敵に立ち向かうことを決意するのび太。その動機付けは美夜子さんとの約束にあるわけで、基本的に友情に篤いのび太がその決断を下すのは当然の流れでありつつ、仕掛けとして「パラレルワールドになる」ことを知ってて流そうとした二体のロボットに対して、彼だけがその決定を下す動機と可能性を持っていたというのはまた物凄く秀逸な展開だと思います。
・なぜ世界を否定し、世界を改変しても生き辛いのか。それはのび太自身が変わっていないから。なぜ世界を再改変しなかったのか。それはのび太自身が(約束により)「変わっていた」から。つまり世界はあくまで世界であり、根幹の原理を変えてみたところでその残酷さは変わらない。変わるのは常に人であり、自分であるのだと。
・「しがらみから逃げてもまた別のしがらみが君を捕らえるよ。もちろんそこからまた逃げてもいい。逃げてもいいけど、のび太は立ち向かったよ。それを見て君はどう思った?」こういう語りかけを僕は作品から感じました。それほど強くは訴えかけてはこないけれど、2度目のもしもボックスを「使わない」っていう選択は、「読者が求めるカタルシスに応える」っていうだけじゃなくて、テーマに基づくようなつくりになっている。そう思えたとき、やっぱりこれも超名作だなぁと思いました。

・あと、ジャイアンが「ぼくもママが…」とか言うの笑えるのと、終盤の美夜子さんの服が場面場面で破れてたり直ってたりするのもいいなぁとか。

バッハがめっちゃ好きってことを言いたいだけの記事

早口で。

・バッハが好きです。そんなマニアというわけじゃないですが、グールドが弾くゴールドベルク(2回目の録音盤)を学生時代に聴いて以来20年に渡って超好きです。他には無伴奏チェロ、捧げものの6声リチェルカーレ、トッカータとフーガ、ブランデンブルグの5番、イタリア&フランス&イギリス組曲、管弦楽組曲の2番と3番あたりがめっちゃ好きで、受難曲は聴けてません。長すぎる。。
・バッハと言えばあのくりんくりんのカツラと重苦しいフーガのイメージが学校の音楽の授業で植え付けられるんじゃないかと思いますし間違ってはないんですが、重苦しい曲は一部だけで、案外かわいくてポップで穏やかな曲も多いです。とにかくまずはグールドのゴールドベルクを聴いたら分かると思います。1曲目のアリアから。愛に満ちたやさしくてとにかく美しい歌です。慎ましい喜びのきらきらと光る旋律が途中少しの愁いを帯びながらも優しさに包まれて穏やかに着地する。その物語はまるで暖かな春に子供の午睡を見守るような情景に思えます。
・で、そっから怒涛の変奏、変奏、変奏! ほぼジャズ。同じモチーフなのに全然表情が違う。コロコロ変わる情景。輝くような笑い声の後にやってくる重苦しい暗転! そっからまた逆転! 波乱万丈の人生のような30曲! 何回聴いても全く飽きません。第30変奏の輝くような大勝利の凱歌本当に最高。で、最後の最後にもう一回、最初のアリアがそのまんま演奏されます。これがまた…すごい。人生の終わりがこんな風に眠るように穏やかであるならどんなに幸せだろうと思えるような情景で幕を閉じ、そしたまた最初の曲へと流転します。最高か。
・バッハのどこがいいのかと聞かれたら返答に困るわけですが、とにかくすごく一生懸命「音楽を愛して作ってる」感が伝わってくるのが好きで。好きだからその音に感情を憂さぶられることに全幅の信頼を寄せられる。超絶技巧に酔いしれるタイミングもあれば本当に何でもない単純な音の羅列に慰められて涙することもある。バッハ先生は音楽の持つあらゆる可能性に全力で取り組んでるように思えるところが、好きなのです。しかもあんな大昔に!
・映画音楽的なところがあり、変に主張してこない(教会音楽なのでそもそもそういう用途)ため、BGM的に流して聴いてよし、逆に腰を入れてがっつり聴き込んでももちろんよし、更にはベッドへ横になってホットアイマスクして全身の力を抜いて寝るかそうでないかってくらいリラックスした状態で浸りきるように聴くのもよし。

娯楽を制する者が世界を制する(?)

「世界」って言葉をどんな概念として定義するかによるのかもですが。
紛争や対立や貧富の格差がなくならない理由は、世界が実はそれをこっそり望んでいるからなのかなとも思ってます。
世界やら社会を構成する個人個人がたとえ望んでいなくても、人々が集まって組織や国家を形成して、それら社会全体で豊かさとかを求めていくと、自然発生的にそういう流れが生まれるのかなと。

誰だって豊かに暮らしたい→豊かさを得るにはそのためのリソースが必要→リソースをかき集めていけば他者との奪い合いは必ず発生する→不平不満が生まれる→それが組織単位で起こると対立が生まれる→紛争に発展。という流れ。

この流れは恐らく断てない。生存における競争心も闘争本能もヒトが当たり前に持っているべきものだから(「やはり人間は素晴らしい」)。
ただ、これも生存戦略の一環として、この流れを断たないまでも緩やかにさせて紛争や対立や貧困を「発生しにくくする」試みは行う価値があると考えています。
上記のチャートは「流れ」であり、下流に行くほど全体のエネルギーは多分高くなって制御不能になる。なら、上流は?
最上流にある「誰だって豊かに暮らしたい」これを押し止めたり、制御して流れの方向(矛先)を変えたりしようとしたものとして「宗教」や「思想」ってのがある。ここは既に様々な試みが進行中(迷走中?)なので保留とすると、その次に上流で鎮座している「豊かさを得るにはそのためのリソースが必要」ここに働きかけを行う試み、これがもっとあってもいいのかなぁと。

極力少ないリソースで人々に豊かさを感じてもらうことができれば、多少なりと流れの勢いが弱まる。かも知れない。そこで「文化」の出番ですよと。ことに大衆文化。
要は民衆のガス抜き。一般市民である僕が考えることでもないのかとは思いますが、市民は市民同士でガスをもっと抜いたらいいじゃない。っていう。
F先生は戦後復興の時代に、これからは娯楽が必要になると仰った(いや、実際はどうか知らんけど「まんが道」の才野はそう言ってた)。
多分僕らは娯楽の有り様について、もう少し工夫できる余地がある。いや多分幾らでも工夫なり熟考なりできるだろうけども、それを皆が皆、研究やら何やらしちゃうと娯楽ではなくなるので匙加減が難しい。
気楽にガスを抜くメソッドとしての娯楽。このえらくいい加減でどうでもよさげな何かをある程度でも制したら、その人は世界に対して一矢報いたと言えるかもですね。

ランボーが保安官に拘留される序盤の流れが見事なのでポイントを忘れないうちにピックアップ

1.穏やかな音楽とともに湖畔に建つの家へと向かう青年。身なりは小汚いが物腰は柔らかく礼儀正しい。戦友に会いに来たとその母に伝えるも戦争が遠因で病死したと聞きショックを受ける。このとき自分から名乗り、大事にしていた写真も母親に譲って早々に辞去していることから好青年であることを受け手に印象付ける。同時に、街の外からやって来たベトナム帰還兵で、ランボーという名前であることもスムーズに説明。

2.街の入り口を見せるカット→保安官パトロールへ。このときの颯爽とした様子から、彼がそれなりのリーダーシップと仕事への入れ込みを持つ者だと印象付ける。なので「よそ者」であるランボーに気づいて声をかけるのも自然。1.の時点でランボーはショックを受けており、保安官への対応がつっけんどんになるのも自然。勿論それだけで大きなトラブルになるわけではないが、車内での動きのある会話で緊張感を醸成してる。

3.街はずれに降ろされるランボー。小雨も降ってきてこんな所にいられるわけもなく、街へ戻るしかないが保安官はそれを見とがめて反抗的な態度だと決めつける。いくら警察でも横柄すぎる対応だが、それにより視聴者はほぼ完全にランボーの味方になるはず。なおかつ保安官もこの時点では暴力には及んでいない。長いコンバットナイフの所持が罪状に付与されるが、ランボーはそれを「狩りのため」持っていたという。実際その通り、狩猟に使うシーンが後で出てくるので、これも嘘ではない。

4.大人しく拘留されるランボー。保安官は部下に後を任せてしまう。そのため、部下側から見たら「保安官が捕らえて来た犯罪者」というフィルターが以後はかかってしまい、扱いが雑になる。それがエスカレート。かつベトナムのフラッシュバックも1回伏線を張ってから数分後に再度爆発させる周到さ。そして、ランボーの逃走劇へと発展する。見事!

事件が事件として起きるまでのお膳立てをワンカットの無駄もなく完全に説得させて見せている。しかも「視聴者の心情の90%くらいはランボーの味方」という見事なバランス感。100%では良くない。以後の保安官たち視点での「刈られる」シーンの緊張感がそれでは削がれるし、そこまで悪すぎる奴らだとリアリティも失せてしまう。「いけ好かない奴らだが、こういう警官もいそう」くらいに抑えておくストーリーテーリングほんと見事。

鉄人兵団と競争本能

「ドラえもん のび太と鉄人兵団」(以下、「鉄人兵団」)についてのネタバレを含みます。

鉄人兵団はラストで歴史改編という、「タイムパトロール仕事しろ(or黙認かよ、やるなあ流石だぜリーム!)」的な手段でもってケリをつけるわけですが、それとキーワードである「競争本能」というものに関してアレコレと。

・ドラマ的には、この歴史改編というタブーを誰も故意に狙って誘導してないというのがポイントかと。しずかちゃんとリルルは、単純に事態の打開策をロボット達の創造主に相談しに行っただけで、そんな大それたことになるとは思ってなかった。しかし創造主は技術者だったので、設計ミスをすぐさま認めて修正せざるを得なかった。つまり不可抗力なわけです。
・さらに上手いのが、創造主である博士が高齢で作業が中断→それをリルル本人が引き継ぐという流れ。これによってしずかちゃんには責を負わせず、単に「友達であるしずかちゃんとのび太達を助けるために自分と仲間を犠牲にする」というリルルの葛藤の解決に物語を収束させてるわけですね。
・さてここで、ロボット達の「競争本能」が問題になります。一見この物語の悪の根源みたいに語られるこれ、初見時は子供心に「競争本能って悪いものなのか!」と刷り込まれるレベルでインパクトがありました。
・「F先生らしくない」大人になるとそう思うことがあります。SF短編を読んだ後なら猶更。劇中でも語られてますが。競争本能は文化の発展には本来必要なもののはず。これがなければ「より良いもの」を目指すということができません。なのにそれを取り除き、歴史は改変され、そしてリルルは消えた…はずなのに生まれ変わった。ご都合主義が過ぎると思ってしまいます。
・しかし、F先生は狙いがあってこうした、そして結果としてこうなった、のかなと今は思えます。
・まずこの物語自体はまっすぐに「侵略戦争」の物語です。話が通じない、価値観の違う異文明が異文明を侵略する。他者よりより強く豊かになろうとする本能の求めに応じようとするその様には、善も悪もありません。そしてのび太達も平気でロボットを打ち倒します。生き物ではないロボット相手だから可能な行為であり表現です。ドラえもんの使える火力は総動員し、敵の火力も利用し、男の子たちは戦いに明け暮れます。地面に身を隠しながら戦う彼らは蛸壺陣地の悲哀すら想起させつつ、敗北寸前まで抗います。
・宇宙小戦争とは似て非なる物語です。あれはイデオロギーの対立が生み出す内戦と強権体制への反抗の物語で、しかもドラえもん達は科学力と物理的な巨大さで相手を圧倒、無双する英雄譚です。
・対して鉄人兵団は負け戦です。ドラえもんが勝てない敵。しかもギガゾンビのような犯罪者でもなく、善悪の価値観を超えた完全な異邦人との負け戦。それを二人の少女の友情が奇跡的に終わらせるわけで、ある意味とても寓話的です。
・そう、寓話なのです。南極に落ちてきた巨大ロボット。鏡の向こうの世界。宇宙からの来訪者。競争本能(言葉はいじってありますが、実際のところ「闘争本能」のことを言ってますよね)という、神が与えたどーしようもないものの否定。そして起こるはずのない奇跡。道具立てもストーリーも、見事に寓話のそれです。SFロボット戦争ものなのに!
・鉄人兵団が宇宙小戦争の翌年に作られたというのも作為的だと感じます。「勝てる戦争」を描いた後に「勝てない戦争」を描くことで、はじめて人は戦争の功罪を知るだろう、そういう仕掛けに見えます。(※その翌年が「戦争→和平」で終わる「竜の騎士」というのも素晴らしい!)
・有名な話ですが、雑誌連載版ではリルルが消えたまま終わります。映画とその後の追加シーンで再登場するも言葉は交わさない彼女の笑顔。それは、起きるはずのない奇跡がもし起きたなら、というIfの幻想として大人の目には映るように演出してあって、子供にはハッピーエンドに映るという、ある意味姑息ですが見事な手腕です。
・では、幻想であり寓話であるなら、F先生は何を語りたかったのか。競争本能の否定…ではないはずです。なぜならロボット達は人間の歴史をなぞっており、彼らは要するに我々人間そのものでした。ただ、彼らは設定上ロボットであり、この物語は寓話であったから、「神(創造主)」が与えた本能を消すことができた。でも、それは僕ら人間にはできないことだと、実は間接的に語っているのです。タイムマシンは存在しませんし、万が一それが可能で、存在すら不明な「神」にかけあってそれを消したとしても、待ってるのは自分たちの存在の否定=消滅なのだから。
・結論を言いますと、僕はこう思ってます。F先生は「人間には競争本能がある、それは突き詰めれば戦争を呼ぶ危険なものだ。そして絶対に消せないんだよ」ということを語っているのだと。狙ってそう語ったかどうかはさっぱりわかりませんが、今の僕はそう受け取っています。
・子供には「他人を押さえつけて自分がより上に立とうとする競争本能は危険なもので、なければ平和なユートピアが作れる(かも?)」と思わせる物語。でもそれは少し大人になればすぐただの寓話でしかないと気付くように作ってある。そして気づいたなら気づいたで、考えなければならない。「実は競争本能って必要じゃん! 消せないじゃん! でも確かに戦争の原因じゃん! どうしよう!」と。
・時限爆弾のような、とても巧みな物語です。大切だけど危険、そして消すことができない本能が、僕たちの中には確かにある。それと付き合う方法まではF先生は教えてくれません。提示はしています。しずかちゃんとリルルがそれを教えてくれています。でもそれは「こうしなさい」と押し付けるものではない。決して。
・やっぱこれは大変な傑作だと思います。苦手な方も多そうな話だとも思いますが、素晴らしいのでぜひ読み返しましょう。リルルとしずかちゃん超尊いし!!!

僕もあなたも神ではないという、赦し

「神はひとりであって、そのほかに神はない」という言葉があるそうです。
これは僕のすごく好きな推理小説のラストに引用されてて、推理小説ゆえにネタバレを避ける意味で書名とかは伏せますが、文脈としては、

あるミスによって何人もの命を救えなかったと苦悩する主人公の名探偵氏に向かって、精神学者の老人がかけてあげる救いの言葉

として登場します。

つまり、「神はひとりであって、そのほかに神はない」
=「君は神ではないので、ミスもするさ。完全に過ちを犯さない人間などいるはずもない。過ちを認めたなら、そう落ち込んでないで、休んで、また君の信じる仕事に戻ればいい
という意味合いなわけです(多分)。

この言葉自体はある宗教のある書物の言葉だそうで、文字通りとらえると「異教の神々は認めない」という排他的な言葉に見えてしまいます。
しかし上記の文脈で使うと、排他的どころかあらゆる他の神性や事象の罪、害悪、過ちすらも赦す寛容の言葉になるのが面白いと思っています。

実際、「神」が「過ちを犯さない絶対者」であるなら、より上位の存在がいる概念は神ではないし(より上位の概念が神になるだけ)、複数体並行して存在する概念も「どちらもが絶対」であるなら同一の存在でも構わないことになるので、結局最上位の神はオンリーワンになってしまうのかなぁと思います。まあそんなランク付けできるような存在でもないんでしょうが。

余談ですが、「万物に神が宿る」系の考えは、要するにすべてが神の御わざであるという考えでもあるので、これもまた「神は(全体で)ひとつ」という考えとは抵触しないように思います。

要は、思い上がらずに、思いつめすぎずに、謙虚であれば、他人を許し、自分も赦せる可能性が増えますよという言葉なのかなと捉えています。

……なので、今日僕が仕事場でやらかしたミスによって、例えばン百万の損害が発生してたりしても、僕は神様ではないので赦されるわけですよね? ね?

聖戦士ダンバインについて

初視聴時は小学生。30数年を経て尼プラで再視聴。控えめに言って超傑作。異世界転移ファンタジーは未来永劫これ一本あればいいって言いたくなるレベル。こんな化け物みたいなアニメを4クール一年間も放送してたの? 総集編の一回もなく? ドラクエ1も出てない時代に? 富野監督は神様だと安田朗さんは言ってたけど本当だわ。

異世界ファンタジーものの楽しさの全てが、1983年作のこのロボットアニメ番組内にある。
剣と魔法(オーラ力だけど)。人間と妖精族と蛮族の力関係。地上世界の最新技術で無双。国獲りと下克上。謎力で動くロボットのアクション。巨大戦艦つーか浮遊城。多くの美男美女(顔濃い目だけど)。ナレーターが若本(関係無い)。ていうか大抵の脇役は若本。極めつけは「東京上空」と「浮上」。
後発の異世界作品群と違って、ちゃんとファンタジー世界の「暮らし」や「人々」も描かれる丁寧さが好き。王族や領主、騎士だけでなく、農民、医者、技術者や戦火に焼かれる市井の人々までちゃんと描写がある。そのせいでドラマが重くなり過ぎたのかも知れないけれど、臆せず描ける仕事っぷりに見惚れる。

荒唐無稽な話なのにシナリオは破綻が少なく感じられ、キャラも凄く整理されていて話も追い易い。下手に謎で話を引っ張ったりもしないのでイライラしなくていい。
画ヅラは流石に古臭いけれども、全て手書きのメカや爆発エフェクトは垂涎ものの格好良さ。

異世界転移で召還された人間が最初から何人もいて、国籍も職業もまちまちで、主人公は特別でも何でもないってのが良い。冷戦下の話らしく、日本人の戦争観、アメリカ人や中国人から見た日本人観といったリアルかつある意味スレスレな会話の応酬(「ジャップ!」「ヤンキー!」)も痺れる。
シンゴジラであれだけタブー視されたてた「核」が、とてもカジュアルに撃たれる80年代アニメ素敵。冷戦真っ只中なのに凄ぇなぁ。ファンタジーと現代仮想戦記を同時にロボットアニメでやっちまうなんて後にも先にもこの作品だけじゃないかしら。
ロボット物としては主人公陣営が負け戦続きで、その上最期もアレなのでカタルシスがあまりないという意見も解る。解るけれども、仮想戦記というか三国志みたいな「どう転ぶか分からない状況のスリルを楽しむ」っていう観方をすると、これほど面白いものもないのでは。

ショウ・ザマはとてもいい主人公。聖人君子ではなく、やや屈折した金持ちお坊ちゃんでスポーツとバイクにのめり込んでた日本人の青年っていうキャラ付けがさりげなく説明されてて色々な描写と符合していくのがたまらんです。やや理想論者だけれど基本的にはリアリズムに則って動くから共感しやすい。アムロとかと違ってウジウジせず立ち直りも速いし。多数の女性に色々な好意や信頼を寄せられながら、本人はマーベル一筋なのも良い。シーラ様とあれだけ接近しておいてあの啖呵が切れるのは凄い事ですよ実際。ニーとの付かず離れずといった信頼関係も良い。中原茂さんの声もすごく良い。

敵側ではショット・ウェポン様が好き。地味な役柄だけど、結局ドレイク様と勝負できたのってこの人とシーラ様だけな気がする。結構歳いってるはずなのに少年みたいな童顔に不精っぽいセミロングの髪とやせっぽちの体躯がいかにもエンジニアな感じで良い。その割りにミュージィを篭絡してるのは手腕や立場の力もあったのだろうけど、ショット様自身にちゃんと人間的な魅力があったということなのでは。ちゃんと愛してはいたみたいだし。本人の自覚薄いけど。
「私が王になった暁にはお前を女王にしてやる」的なセリフを吐く人は富野作品には何人もいるけれど、その中でもこの人のそれは悲壮感2割畏怖8割くらいで絶妙。有能な悪党って手に負えないなぁ。流石はファンタジー世界に電子機器工場を建設できるだけの天才ではある。
製図機で仕事してるカットが地味だけど凄く好き。

ドレイク様は富野作品の敵役としては珍しいくらい華がなくて質実剛健。めっちゃ武骨でかっこいい。結局あの人はあの人なりに国のことを考えて無能な王を打倒し、賛同者を集めてバイストン・ウェルを平定しようとしたわけで悪人だったとはあんまり思えない。
むしろ奥さんがアレすぎる。ビショットじゃなくてニーを懐柔するとか和解してたら野望も上手くいってたかも…?

ヤミィK先生とそのご友人の傑作漫画「ラジーン」レビュー

↑その素晴らしい本編はこちらです。

以下、各コマごとにレビューいきます。

・1P、1コマ目:いきなり現れる某有名な家のパロディ。しかしこの屋根の上に立つ煙突とたなびく煙こそが後の悪夢のカーニバルへ続く伏線だと気付く人はよもやいまいと思います。
・1P、2コマ目:はい、煙の正体は「ラジーン」でした。漢字をあてると「羅神」ですね。恐らくは「アラジンの魔法のランプの魔神」からの着想でしょう(適当)。煙の形状からアゴのしゃくれたコミカルなキャラを創造してのけた手腕にまず、拍手を。
・1P、3コマ目:そのコミカルなキャラが突然牙をむく! リアリズムに徹した歯茎の表現が迫力満点!!
・1P、4コマ目:1コマ目の登場人物たちが一瞬で退場することにより、この物語が「ラジーンのための物語である」ことを決定付ける運命のコマ。

・2P、1コマ目:新たなる旅立ち。希望に満ちた旅の予感。
・2P、2コマ目:その予感は完全に裏切られる。
・2P、3コマ目:新たなる出会いが運命の転機を予想させる。
・2P、4コマ目:少女はラジーンにとってのファム・ファタルとなるのか?

・3P、1コマ目:なった。いや確かに少女と出会ったことに意味はあったけどさあ!!!
・3P、2コマ目:そして最悪の展開へ。今までは無邪気じゃなかったんかいというツッコミすら追いつかない怒涛のスピード。
・3P、3コマ目:当然予想される世界の行く末を冷酷かつ端的に説明し
・3P、4コマ目:絶望に満ちた世界を描いておいて

・4P、1コマ目:胸アツな展開へ!!
・4P、2コマ目:まあ分かってたさ!(笑
・4P、3コマ目:そして丁寧に風呂敷を畳み
・4P、4コマ目:中国の故事を思わせる雄大な、そしてちょっとキュートなラストで物語は閉じる。もはや言葉は不要。

・まとめ:特筆すべきはその整合性とスピード感。リレーにありがちな「足の引っ張り合い」はそこになく、互いのパスに対し的確なパスを返す…というよりは全力シュートの撃ち合いみてぇな乱打戦というか銃撃戦が味わえるところに、この「ラジーン」の面白さが凝縮していると言えます。多分。

●「好きなことをやってメシ食っていく」問題 下

・「一般就職して堅実に生活しながら好きなことを趣味でやる」これもまた人気の高いライフプランだと思います。個人的には「めっちゃアリ」だと思いつつ、他人には勧められない生き方かなとも思います。
・その理由は簡単で、やっぱりSYMKできてる人の仕事って凄いのです。だって「好き」で「生活をかけて」仕事するんですよ? 「好きパワー」と「仕事パワー」と、かけた時間と立派な機材、周囲のバックアップ等もコミで、その「プロの仕事」はアマチュアの「作業」に比較して、かかったりソース量が全然違ってくるのが常。何倍とかではなく、何乗って感じになることも。
・しかーし、「凄い仕事ができる」=「幸せ」ではないのもまた事実。十分な幸せが得られるのであれば趣味で好きなことをやるというのは全然アリなはず。SYMKできてるプロだって、仕事とは別に趣味で創作したりってこともあるでしょうし。趣味を馬鹿にしてはいかん。

・「アマチュアだからプロより凄くない」と考える必要は無い。理由は簡単「凄さに絶対普遍の指標なんて存在しない」から。手塚先生は漫画の神様でプロの中のプロで超凄いけれども、人によっては手塚先生の生原稿より一推しのアマチュア絵師さんが「自分のためだけに描いてくれた絵」の方が貰えて嬉しいってことだってあるでしょ?
・逆に、アマチュアの立場からはプロの仕事へのリスペクトを忘れるべきでないとも思います。とても難しいSYMKの壁をぶち破ってプロになった方というのは、その覚悟だけでも超賞賛に値するはず。舐めて考えるのは違う。恐れおののくのも仕方ないけどそれだけじゃダメ。アマチュアの作業とプロの仕事の間には確かに溝があるけど、深さや幅は一定ではないし、溝の底を渡れば地続きでもあるはず。

・SYMKのメリットについて。好きなことに自分の全部の時間がつぎ込めるというのが一番なのかなと思います。生活のためのリソースがそのまま活動のリソースに転用できるという状態。1日8時間労働すると考えるなら、歌が好きな人は毎日8時間歌のための練習や地道な作業が行えて、絵が好きな人は毎日8時間描ける。それを週に5日。毎週毎月毎年、定年まで否応なく続けられる。そういうことですよね。SYMKを真剣に考えられるか否かの指標のひとつにもなるかと思います。そういう生活を続けることに少しでも迷いがあるならまだ覚悟が足りないと思うべきか、みたいな。
・SYMKして全力で全身全霊を込めて成し遂げたい何かがある!! …と、はっきりした目標がある人は、もうSYMK目指して全力投球するのがベストだと思います。ただその前に一応、「本当にSYMKが必須なのか?」「自分が本当にそれを成し遂げなければならないと感じているか?」「成し遂げたあとはどうするのか?」といった疑問への回答もしておく必要があるかと思います。なお疑問さえ浮かばない場合はもう走り出すしかないとも思います。
・もうひとつ、SYMKできれば自分の仕事が世間に広まる、世界に貢献できる的な面もあるかと思います。しかしそれによる達成感とか実際の社会貢献度って本人には分かりにくい。どんなに「世界中に発信できた! 賛辞がもらえた!」と思って嬉しくなっても、その感情はいずれ薄れる。そういうのをちゃんと味わうのも実はスキルが必要で、そのスキルがしっかり見につけられるような人は、目の前のひとりの人に喜んでもらえるだけでも達成感は得られたりする。それだったらSYMKできてなくても問題ないということになる…。
・だから、極論なのだと思いますが、SYMKの一番のポイントはやっぱり「生きていくための手段」が「好きなこと、続けられること」であるところに落ち着く、のかも知れません。生活のための手段は誰にとっても必要。だから必ず先んじる。どんなに「好き」を高らかに謳いたくとも、好きでいるためにはまずその想いを持った自分自身が生きなければならない。
・なので、好きなものを好きと言い張れながら生きて、その生きていくための生活ルーチン、システム構築が自分なりにできて生活が回っているひとは、自分を誇っていいと思ってます。SYMKができてるかどうかより、まずそっちの方が大事なんじゃないかと。

●「好きなことをやってメシ食っていく」問題 上

絵を描くのが好きな人が絵でメシ食って生きていく方法や、歌うのが好きな人が歌でメシ食って生きていく方法とかについての話。
ごく個人的な思いつきや、いろんな考え方をただ箇条書きで列挙してゆきます。

※冗長なので「好きなことをやってメシ食っていく」を、以下「SYMK」と略します。

・まず前提。僕はプログラミングが好きで、プロのプログラマーやってます。つまりSYMKできてる人間ではあります。が、これはただ単に人材が常に不足してる業界の仕事を、たまたま僕が好きだったというだけの話です。つまり、業界、職種、住んでる場所、こだわりの有無次第で、SYMKの難易度は全然違うという事。

・プロの画家、プロの歌手や音楽家、プロの俳優、プロの漫画家等になるのは難しく、なってから食っていくのも難しい。これは一般的な認識だと思います。僕もプロの音楽家になれるだろうか考えたことが1年くらいあって挫折した人間なのである程度解ります。
・しかし例えば、プロの漫画家さんとしてSYMKするのが難しくても、漫画が好きで漫画に関わる職種でSYMKするというだけなら色々な職業選択が可能なはず。アシ、編集、印刷、製本、流通、Web配信技術等々。考えることや、調べなければ見えてこない情報は多い。
・将来性の話。どんな業界も将来の保障を100%してくれるわけではない。しかし、安定性の高い業界や職種というのも無いではない。
・技術と経験は無意味でも無価値でもない。どこかで何かの役に立つ可能性が常にある。しかし、何処で何がどう役に立つのかは分からない。未来の見通しは常に、現実的な予測を立てることはできてもその予測に「絶対の保障」は存在しない。
・それでもなお、一般職に就職するというのは比較的安定感が高い選択であると世間では言われていて、確かにその言は間違ってはいないと思います。保険制度もあって、失職しても失業給付金とか再就職のための制度とかもあるので。一般就職は確かに強みがあると言っていい。
・なお、上述のプログラマーのように、SYMKしつつ一般就職する道も勿論あるはずです。
・SYMKを考える際に、「食えるかどうか」は大事な要素。でもそこ以外にも考えないといけない要素があるかと思います。例えば、「自分は本当にそれが好きなのか、どれくらい好きなのか?」とか、「食えるというのは、どのレベルの生活水準を差しているのか」とか。「その生活を何年続けるつもりなのか」とか「どこまで本気なのか」とか「その生活の先に何か目標があるのか」等。

・個人的には、SYMKというのは人それぞれにスタンスやルートがあっていい物だと思ってます。例えばロシアの近代作曲家ボロディン。有名な方ですが彼の収入は主に化学者としての活動でした。例えば推理小説家のクロフツ。超巨匠ですが本業は長らく鉄道マンでした。逆にバッハ先生とかは食っていくために毎週新曲を作るとかって超ブラック労働を続けてたそうですし、その割りに評価されるようになったのは死後。ほんと様々です。
・一番大事なのは「本人の幸せ」だと思ってます。幸せなんて不確かで瞬間的で刹那的なものですが、だからと言って、SYMKが叶っても不幸せであるならそれは困るでしょうし、ちゃんと考えて追う価値があるはずだと。

少女終末旅行のフリーWebゲーム第2段について

(※画像と内容は無関係です本当です)

・仮題:少女終末あどべんちゃー
正式タイトルもこんな半分ふざけた、ゆるーい感じにしたいです。
当面の略称は、「終あど」。Webで有料コンテンツ配信できる技術がないので、やっぱりプレイ料金は完全無料です。

・制作の進め方
終いち」は手探りで、あまり制作状況を表に出さずに、最小限のチームで各々がベストを尽くすような制作でしたが、「終あど」はもうちょっとオープンに行ってみようと思います。制作への協力者様、参加者様を募り、可能なら大人数で少しずつ文章や絵や背景写真を出し合っていただいて、組み上げるというような。もちろんそれは、制作に(終いち同様基本的に無償で…)関わりたいという方が何人かいてくださる前提になりますが。

 

・ゲームの構想、概要

「終いち」はノベルゲームでしたが、「終あど」はアドベンチャーゲーム(AVG)です。選択肢分岐だけでなく、行動コマンドの選択でゲームが進みます。つまりただの読み物でなく、もっとゲーム性があるゲームです。その分、プレイヤーさんごとに得手不得手が出そうですが、難易度は極力低くするつもりです。
原作5巻序盤くらいの時間軸で、ある層の一角が舞台。あるいは4巻の時間軸にしてヌコと一緒の頃の話にするかも?

 次層へ至るだろう基幹搭を目前にして、大きな溝に阻まれたチトとユーリ。給油設備は見つけたが、食料はあと10日分程度しかない。東に工業地区、西に住宅街、南には戦場跡、北は溝が延々と横たわるという状況で、いかにして進むか? 食料を探しつつ、進むべき路を探す……的なストーリーで、終末旅行を軽く疑似体験するゲームを目指します。

ただ、3Dでゴリゴリ動いてみせたりは技術的にできませんので、それっぽい無人の背景写真を「終いち」と同様にノイズ加工して、それと文章とで情景を表現していくことにします。

移動」コマンドで移動。エリア内(例えば工業地区エリア等)であれば何回でも自由に移動可能。1エリアは4~8くらいのポイントに分かれてて、ポイント間の移動では食料は消費されません。しかしスタート地点の給油設備に戻ったり、そこから別のエリアに移動する際には食糧が1日分減ります(燃料は常にスタート地点で給油していることにし、プレイヤーは管理不要とすることで、プレイ難易度を下げます)。
探索」コマンドで今いるポイント内を探索。状況によって棒や兵器、食料、爆弾、鍵、ワイヤー、IDカード等のアイテムを拾う。拾ったアイテムは使うべき場所に移動した際に、チトかユーリがほぼ自動的に使用し、新たなルートが開けたりします。
会話」コマンドで、チトとユーリの簡単な会話劇が読めます。エリアごと、ポイントごとに内容は異なり、攻略のヒントになったり、場合によっては新たな場面に自動進行したりします。選択肢でストーリーが分岐することも。

特定のポイント(例えば住宅街エリアの巨大商店跡地とか)に到達することで、ケッテンクラートを降りて建物内を徒歩で探索するシーンに移ったりもします。ただしコマンドはケッテンでの移動時と同じで、「移動」によりフロアを移動。「探索」「会話」も外と同様。そしてシーン内で何かを発見したり、特定の場所に到達することで、「終いち」のワンシーン程度の長さのショートストーリーが、ノベルゲーム形式で流れたりも。

登場する施設や、そこでのイベントといったアイデア、それに短編SS等を書いてくださる方を、そのうち募集したいと思っています。内容がゲーム内に実装可能かは要相談となりますが、「昼寝」回みたいな夢オチ等も視野に入れれば、何でもありにできそうな気もします。
あるいはPixiv等で既に発表済みのSSをゲーム内ノベルシーン化するとかも、可能&了承いただけるなら、やってみたいと思ってます(例えばサイファーさんの「依託」とか)。
他に募集したいものとして、終末世界風の写真画像と、短編SS内等に挿入するイラストがあります。ただ、どの要素の募集にしてもまずはプロトタイプの完成後になるかと思います。

募集に賛同してくださる方の数次第ですが、ゲーム全体が一つのアンソロジーみたいなものになると楽しそうかなと思ってます。

プレイ時間は長くて5、6時間程度。ただし全ルート解放はもう数時間の試行錯誤が要。くらいかと。
そうすると短編ノベルシーンは4、5本。エリア数5~10程度。移動可能な全ポイント数は50~100? なので背景写真の枚数も同じくらいかなと見込んでいます。

僧侶Lv23と魔導師Lv18のオザーガ来訪記

(※僧侶ソルが魔導師兼吟遊詩人ロギと仲違いせず、最初の事件後も中堅冒険者同士として交流を続けていた世界線のお話です)
カーマヤ領から東へ向かい、メジャ、ゴーヴェの2都市を跨いだ先には、大陸でも1,2を争う大都市オザーガが鎮座していた。大陸の西部では間違いなく最大の都市であり、強大な経済基盤を持つこの都市のさらに中央、ナーバン通りの繁華街に二人は立ち寄っていた。

「なぜ?」
「だって君、いつか来たいって言ってたでしょ?」

華美を極めた、いや極め尽くした結果、装飾に埋もれてしまったかのような建物ばかりが連なる街並み。右へ左へ行き交う人の群れ、波、大雑踏。
方言もカーマヤのものとは異なるため、注意していないと会話にすら窮するその街路のけたたましい喧騒の中で、吟遊詩人ロギは連れの僧侶の涼しげな顔に無言で非難の視線を浴びせた。浴びせられた当の僧侶ソルは全く気にすることのない顔で街路を歩いた。人の波をかき分け、かわし、泳ぐように。

「もちろん目的はちゃんとあるよ。ウチの教区で必要な備品の調達と運搬。どれも結構な値打物だから護衛は雇っていいってことだったし」
「隊商の仕事でしょう、そういうのは」
「教会には教会の独自ルールがあるんだよ。今決めた設定だけどね」
「そんなメタな」

やっとの思いで路地へと入り、表通りの雑踏から解放された二人はそう呟きあった。ロギはもちろん、ソルも口の割には額に汗を光らせ、肩で息をしている。

「……対人強制排除結界、習得しとくべきだったと、割と本気で思ってるよ」
「聖職者でしょう貴方は」

ソルの、度の過ぎた冗談をロギは真顔で諌める。

「あ、いいね今の。この辺の言葉でそういうの『ツコッミ』て呼ぶそうだよ。流石は吟遊詩人。場の空気に馴染むの早いね」
「お褒めに預かりどうも。で、これからどうするんです?」

ロギの冷静な返しに対して、ソルは言葉でなく行動で返答しようとした。懐から地図を取り出し、現在地と目的地を確認後、速やかに最適ルートを導き出す算段だった。だがしかし。

「地図がない」
「はあ」
落としたんですかとロギが続ける間もなく、
「財布もない」
と、僧侶ロギは青白い顔で続けた。

***

『雑踏の中で落とした財布を見つけ、再入手する』
これが如何に困難かは、現代に生きる我々にとっても、ファンタジー世界に生きる中堅冒険者たちにとっても全く同様であった。

「魔法で見つけよう! ピーリカ(中略)ペーペルト! 財布よ出てこーい☆」
というわけにはいかないからである。魔法とはそんなに便利なものではないのだ。世界のルールにほんの少し干渉し、一瞬だけ改変する。それが原理であり全てであり、決してシナリオライターの都合良く問題を解決してくれるような代物ではない。

「とりあえず落ち着いてください」
「これが落ち着いていられる? 僕の財布だよ? 君のじゃないんだよ? ロギはいいよね、冷静でいられて。……関係……ないからっ!」
「パロディかましてる余裕があるくらいに冷静なのは理解しました。とりあえずその財布の特徴を教えてください」
「え、いつも使ってる奴だよ。君も何度か見たでしょ?」
「それだと読者に地の文で説明しないといけないでしょう。こういうときは会話文で自然に説明したいんです」
「今回えらくメタだね」
「たまにはいいでしょう。で、特徴は?」
「茶色の二つ折り布製。シグラのホワイトウォール商会でライラが誕生日に買ってくれたんだ。僕の名前の刺繍入り」
「さりげなくごちそうさまです。じゃあ行きますよ」
「どこへ?」
「ドトーン堀です。財布と引き換えに、ひと仕事してもらいますよ」

***

二人はナーバンの街路でもっとも人の集まる人気の観光スポット、ドトーンの水堀にかかる石橋へとやってきた。その欄干の上にロギはひらりと飛び乗ると、リュートを構え、歌い始める。

「西の地平に月は落ち
闇と静寂が風を招く
黒き森を越え旅人は
朝日に満ちた地に至る…♪」

朗々と、それでいて凛と冴える豊かで哀愁も帯びた歌声。しかしそれも、周囲の喧騒の前にはただかき消されるものでしかない。ごく近い位置にいる人々は、そのすらりとした美しい吟遊詩人の所作に目を惹かれたが、だからといって立ち止まるわけでもない。
一体何の意味があって……とソルが訝しく思った次の瞬間……!

「せやけど財布がないやんけ!
折角来たのになんでやねん!
スリかコソ泥置き引き窃盗?
そんな輩がこの街に?
あーりえへん~♪ ありえへん~♪」

……突然のオザーガ弁(かなり怪しいが)! そして大音量!
ソルは一瞬で理解した。これは催眠歌唱と同じ、魔力供与による音の威力の増幅!
群集はぴたりと足を止め、その音の源を注視する。なんやなんやとざわめく声。
ロギは構わず大声量で歌い上げる! 「じゃかしい黙れ」と上がる野次! しかしそれをかき消すように、「ええぞ!」「あんちゃん上手いやん!」と、囃し立てるような歓声と手拍子も四方から舞い飛ぶ!

そう、ここはオザーガ! やったもん勝ち! 何でもありの街!

ロギの歌は街路を満たし、2つ先のブロックにまで届いた。雑踏は聴衆となり、オーディエンスはいまや一体となり興奮ではちきれそうだ!

「あんちゃんどこのモンやー?!」
「名乗る程ではありまへん~♪ カーマヤから来た馬の骨~♪ 吟遊詩人のロギでおま~♪」
「財布落としたんか? どんなのや?」
「こちらにおわす坊さんの~♪ 怖いカミさん夜なべして~♪ 愛を込めたり刺繍入り~♪ 茶色の布の二つ折り~♪」
「おお、この坊さんのか! 坊さん、あんた名前は?」
「ソ、ソルです」
「ソッソルさんか! 分かった! 探したる!」
「いや、ソルです」
「イヤソルさん?」
「ソルです!!!」

がははははと上がる爆笑。見るとソルの周りには赤い顔をした酔っ払いが集まり、口々にソルの(間違った)名前や、財布の(間違った)特徴を伝え合っていた。
その混乱をどうにか訂正しようと、シグラの僧正は駆け出そうとするが、吟遊詩人の足にローブの襟首を引っ掛けられて、止められてしまう。

「……ここからが本番です。あなたは魔力をこっちにください」
ロギがそう真顔で言う。「まだ歌うのかい?」と、ソルが問うより早く。
「おっしゃあんちゃん! もう一曲来いやぁ!」
と、群集から声が上がる。そう、ここはオザーガ。盛り上げてしまった者は、その責任を取らなければならない!!
引き際などないのだ! 拍手貰って大人しく退場するなど、この街の屈強なお祭り野郎共が許す筈もない!!

「よっしゃ、ほんならもう一曲いったるで! 聴いてください『明日もまた生きる為に ~オーザガ弁ver~』」

再び響き渡るマジカルアンプリュート! 吟遊詩人ハイパーボイス! オーディエンスの一体となったヘドバンで街路に突風が発生しそうだ!
橋が崩れ落ちるかと思うほどの熱狂! 騒乱! 大混乱!

酒瓶が舞い飛び、酔っ払いは堀にダイブし、にーちゃんねーちゃんの笑い声と罵声と怒声と歓声とが交差し続ける!!
その異常なゲリラライヴはそれから4時間半続き、二人のHPとMPが完全に尽きる直前で、見つかった財布と共にエンディングを迎えたのだった。

***

夜、大量の酔っ払いに囲まれた二人は限界を超えた飲酒量のせいで朦朧とする意識の中、ほの明るい酒場のテーブルにて

「……で、これからどうするんです?」
「目が覚めたら…………まずアルコールの解毒。それから考えよう」

と呟きあってから、互いの頭を軽くぶつけ合いつつうなだれて、全く同時に目を閉じた。

エリンギコスのレシピです

●頭部:
ダンボール板2枚がメイン。補強用に細いのをもう2枚用意。
メインの板2枚で楕円になるようにし、中央に穴を開けてテープで止める。kimg3087-1.jpg

補強用の板を橋渡しのようにテープで止めて、全体をゆるいお椀方にします。

KIMG3088.JPG

実際のエリンギ頭部は円形ですが、荷物になるため楕円で妥協しました。
テープでバシバシ止めてやれば強度は十分確保できますが、分解はテープを切るしかなくなります。使い捨て衣装と考えてそこも妥協しました。

フリース布(1m500円のセール品)を120cmくらいカットしてお椀型の頭部に被せ、中央の穴に下からつっこみ、内側にテープで止める。布のシワがいい感じにキノコ感を出してくれます。

KIMG3089

●身体部分:
僕の身長が171cmなので、160cmくらいでカットした布を使い、円筒形にして縫い合わせます。要するに筒状のマントを作ればオッケー。時間がなかったので雑な作りです。一応右手だけは出せるよう穴を開けています。

●マスク:
残った布を顔に巻いて頭の裏で止める。ミシンで縫うのが理想ですが、時間がなかったのでホチキス止めしました。フリースはいい感じに伸びるので顔にフィットしてくれます。顔あっつい。
のぞき穴を開けて、その上に顔を描く。フリースに直接描くのは失敗でした。薄すぎる。太く濃く描いた紙を切って貼る方が良かったなと。

kimg3090.jpg

…みたいな感じです!

Kimg3031

物語ってなんだろう?

物語を作る目的はひとそれぞれだと思いますが、作る以上はそれがどういうものなのか知っておいた方がいいのではと考えました。
勿論僕は物語の本質が何なのかなんて全然知りませんし解ってませんが。なればこそあえて考察してみました。

物語はウソである:ノンフィクションでさえウソが混じってないとは言えない。創作物である以上、完全な真実なわけがない。フィクションは勿論うそんこである。
物語は、没頭してる最中は真実の体験である:読み終えたときや一休みしてるときに「オイオイオイ」と思っても、読んで脳内に劇が繰り広げられてる間は体験である。体験していること自体は真実である。
つまり「本来あり得ない、体験できないことが体験できる」のが物語の力の一つである:これについては本当にそうだろうと思います。

物語にはテーマがある:これが何故あるのか、何故必要なのかが不明。一旦おいておきます。
・例えば遊園地とか動物園とかは体験を提供する施設なわけですが、テーマパークとかって呼ばれる通り、そこにもテーマやらコンセプトやらがある。これがまとまってない施設は「複合施設」とかって呼ばれて、それ自体もまたコンセプトとして売りに出される。
・料理とかもそう。基本的には辛い料理とか甘いお菓子とかってコンセプトがある。甘辛いとか甘酸っぱいとかも。
・ここで仮説なのですが、人間の知覚はあまりマルチタスクでなくって、1つか2つ以上の感情の揺れ、膨らみを認識したり処理するのが難しいのではと考えます。なら、一度に与えるor与えられる体験は、1つか2つくらいに絞った方がいい。そうするとよりストレートにガツンと体験できる。あるいは2つの味で引き立てあうみたいなこともできる。3つ以上も敢えてやるのは意味があると思いますが、多分難しい。
・「怖そうなお化け屋敷だ」と思わせる入口があったとして、入ってみる→「本当に怖い! 期待通りだった! よかった!」=良体験。
同じ入口から怖さよりも美しさ優先の耽美なホラーアート→「うわぁ…こんな綺麗な恐怖もあるのか…」=これもこれで良体験。お笑いでも胸アツでもアリ。
・つまり受け手側の感動体験を誘導できるところに、テーマやコンセプトの意味があるのかもしれません。
・「テーマが良く分からん、ぶれてる」っていう批判が、ある物語に対して行なわれてたとする。それは要するにアンマッチで、受け手の求めと作り手の誘導が上手くいかなかったということなのかなと思います。どっちが悪いとかいう話でなく。
・ただ作る側は、可能ならそれを上手く誘導できた方がいい。受け手が誰でどんな人なのかはさておき、良い体験(あるいは最悪な体験でも可)をしてもらえれば、少なくとも語ることの意味が増す。

・どうテーマを決めて語るか?:これはもう技術の話になるのでそういう本を探してお勉強になるのかなと思います。聞いた限りでは以下な感じなのかな…
・テーマは一言で言えるものである:「愛」とか単語だけではないし、「AとBとの愛は性別や種族を超えて時代を動かし次元さえ超越して云々」みたいなダラダラ語るものでも無いらしい。理由は良く分からんですが、「愛」なら愛で、作者や登場人物がそれに対して「どう向き合うか」くらいまで含めてまとめられるものがテーマとして適当ってことなのでしょう。例えば「損得勘定は尊い、愛はなお尊い」とかは「まおゆう」のテーマだと思いますがこれとか終始一貫しててかつ解り易くて素晴らしい。
・テーマはエピソードの切り貼りの判断基準にできる:テーマの利点は色々あるようですが、作り手から考えるとこれは大きい。このエピソードは要るんだろうか? 要るならどこに配置しようかと迷ったら、基礎となるテーマに照らせばいい。ちょっとしたギャグとかを箸休めに入れるとしても、テーマを引き立ててるなら一石二鳥になる。伏線とかに使えるならもう最高。逆にテーマに引っ張られるのが嫌だなと感じたら、それはテーマが悪いと考えてもいい。テーマを決めなおせば指針が決まることもある。
・そういう意味では、テーマは「旅の目的」とかに近いものかも知れません。食べることか、人に会うことか、観ることか、触れることか、挑戦することか。目的に応じて経由地やスケジュールは決められる。
・逆に言えば、テーマが決め辛ければ経由地やスケジュールから逆算しても良い? 書きたいシーンがあるならそこは外せない。それが2つ以上確定してるなら、その間のルートを決める指針には丁度良い。「主人公の挫折」と「ワンチャンスからの逆転」を書きたいと決まってるなら、テーマは「諦めない心がもたらす勝利」としてもいいし「諦めても投げ出しても可能性は無にならない」とかでもいい。ただ、ここでのテーマの決め方でルートは変わるはず。ゲーム感覚! 気軽に選択肢を選んで雑にプロットを書いて、気に入った方を選べばいい。

余談ですが。物語創作の最高に気持ちのいい点は、時間と頭脳労働のコスト以外にお金が要らない趣味だという事。言葉を喋ることができれば作ることができる。ただし漠然とした無の空間にポっと生み出されるものじゃないのでとっかかりには迷う。詰まる点も多い。
・そこで視点を立体的に動かすと詰まりは解消し易いかもしれない。あるシーンでその続きが考えられなくなったら別のシーン(前でも後でもいい)やセリフの言い替え、キャラの役割変更とかを試しに考えて、出てきたアイデアをテーマやプロットに反映させるとクロスワードのようにヒントが増える。それが連鎖して物語を構成して行くこともある。これが最高に面白い。

エピローグ【ある僧侶見習いの物語】

祈りに心を乗せて飛ばす。
想いは空へと溶けて行く。
そうしていればいずれ、
この御し難い心を全て溶かし尽くしてしまえるだろうか。

***

ある北方の寒村に一軒の教会があった。教会は民家と兼用であり、農業を営む老夫婦が住んでいた。夫は神父であり、妻は野良仕事の得意な心身堅牢たるご婦人だった。
二人に子どもはいなかった。戦争と病気で、皆亡くなってしまったという。しかし二人は幸せそうだった。愛するものを失う事もまた人生のあるべき姿である、というような意味の言葉がこの国の教会の教義の一節に含まれていたが、それを彼らが意識して生活しているのかどうかまでは、誰にも分からない。

そして、ある冬の日を境に、この家と呼ぶか教会と呼ぶか、とにかくこの建物に第三の人物が住み込むようになった。老神父は彼を弟子と呼んだが、彼の妻はまるで実の息子のようにその「夫の弟子」たる青年を、厳しく、そしてごく稀に優しく、諭し、育て、そして主には野良仕事の手伝いをさせた。
青年は懸命に働いた。とても従順だった。髪を短く刈り込み、無骨で質素な衣服を纏い、言われるままに慣れない鋤を握り、硬い土を耕した。

耕しながら彼は考えた。自分にはなぜ心があるのだろうかと。
今の自分には必要のない、邪魔なものだと思う。だがその気持ちもまた心から来るものだと師は言う。
なら逃げようがないものと観念して、自分はただ働くしかない。
働いて、働いて、働いて、眠り、食べ、また働く。そうするしかないのだと。何度も、何度も。

「彼」は、何も考えずにただ働き続けるだけの道具でありたいと考えて、それをただ淡々と実行しているようだった。

***

ある日、老神父は弟子にこう告げた。
「アイド市の郊外に住む、まだ若いご婦人が、亡くされたご主人の遺品を届けて欲しいと仰っている。昨日、その旨を記した手紙が届いたんだよ」
弟子は頷き、自分の使命を知った。運命を感じた。そして、

「承りました」
静かにそう答え、その『遺品』を手に、旅立った。
***
その日は優しく晴れた暖かな春の一日だった。雪は北国の森の中でまだその白さを保っていたが、路からは既に掻きどけられ、解けた水分が小さな川のように光を反射し、輝いていた。

森の開けた場所に、それなりに広い庭と小さな家があった。その庭を5、6歳くらいの小さな子ども達が二人、楽しそうに駆け回って遊んでいた。一人はやや小柄な男の子で、もう一人はそれよりやや大柄な女の子。おそらく姉弟なのだろう。どちらもよく似た、丸い大きな目をしていた。

「あ、神父さまだ!」
「神父さま?」
僧服をまとった青年の姿を見て、二人は駆け寄って来た。この辺りでは神父は子供たちに祝福を授けると同時に、飴玉を渡す習慣があるらしい。祝福と、それよりもっと嬉しい飴玉とを求めて駆けてきた二人に、青年はやさしく答えた。

「私はまだ見習いの僧だよ。祝福は授けられないけれど、飴は師から渡されてるから、お祈りと一緒にそれをあげよう。どうか、君たちに優しい幸せが訪れますように」
そう言いながら彼は小さな包みを一つずつ、子どもたちに手渡した。

「……お母さんはいるかい?」
「はい」
「います」
「ありがとう。気を付けて遊ぶんだよ」
「「はーい!」」

そして青年は子ども達と別れ、その戸口に立った。祈る様に目を閉じ、開いて青い空を仰ぎ、そして戸を叩いた。

「はい。どなた?」
懐かしい声が聴こえた。
扉が開く。美しい黒髪の、若い女性が現れた。最後に彼が彼女を見たのはもう6年も前のことだったが、彼女の凛とした美しさは衰えることなく、むしろ研ぎ澄まされているように思えた。
その切れ長の瞳が、青年の瞳を見た。次に、僧帽の下の髪を。

「髪、切ったのね。似合ってるわよ」
彼女は微笑んでそう言った。
言われた青年は、その言葉に驚いたのだろうか。一瞬沈黙し、
「……ありがとうございます。貴女も相変わらずお美しいです」
とだけ、何とか答えた。

「どうぞ入って、ロギ」
ライラはそれだけ言うと、身を引いてロギを家の中に招き入れた。
ロギは返す言葉もなく、ただ頷いてそれに従う。
その背には、ソルの遺品である僧服と装備一式が纏められて、背負われていた。
***
6年前の冬、ロギはソルに背負われて老神父の家に運び込まれた。彼は運良く一命を取り留めたが、ソルは助からなかった。

その事実を知ったとき、ロギは自分がどう振舞ったのか記憶にない。ただ、老神父はこう言った。
「彼のことがそれほど大切なら、彼もまた君が大切だったから君を助けたのに違いない。君には義務があるはずだ。彼の大切なものを護るという義務が」
その言葉を彼は聞き入れた。そして神父の教えにただ従い、今日まで生きてきた。

今日は運命の日だと、彼は信じていた。ライラに告げる言葉など何一つ思いつかない。赦しが得られるなど夢にも思っていない。
あの戸が開き、ライラが自分を見た次の瞬間に、自分は死ぬのだろうと、根拠もなく考えていた。
自分が赦される筈はない。ソルは自分のせいで死んだ。自分が彼を殺したのだ。そして彼を誰よりも愛した彼女は、自分を易々と殺すことができる、研ぎ澄まされた剣の化身だ。
それらの厳然たる事実の先に、自分の命が残る路など考えられはしない。そして漸く、彼の旅路は終わるのだと思っていた。

なのに。

その部屋には暖かなストーブと食事が用意されていた。テーブルには老紳士が一人、既に座っていた。ロギは一見して、その物腰の柔らかな初老の紳士がライラの父、「紅鷲」のアルヴォードその人であると直感した。

「荷物はこっちに頂戴。どうぞ、座って楽にして」
ライラがやさしくそう言った。ロギは黙って従った。

「よく来てくれたね。疲れたろう」
老紳士はそう言って、ロギに飲み物を勧めた。ロギはどう答えたらいいのか分からない。自分はこの瞬間に生きている筈がないのだ。言葉など何も用意していない。
老紳士は構わず、ここ最近の気候や街の様子などについて話した。ロギは相槌だけを返す。やがて奥の部屋から、ライラが戻って来た。

「緊張してるの? らしくないわよ」
ライラが声をかける。その声に「仕方ないよ、ロギだって僕だって、初めてこの家に入ったら緊張くらいするさ」と、彼女の夫が応えたような気がした。はっきりと声すら聴こえたように彼には思えた。

ライラが座って、微笑んで、ロギを見た。
「私は……」
ロギは口をどうにか開いてそう言った。
ライラの顔から、微笑みが消えた。
「ライラ……私は……ソルを…………貴女に……何て……」
「いいから」

ライラは言った。やさしさを帯びた、それでいて鋭い声だった。
ロギの目に涙はなかった。ただ、握った両拳が震えていた。息さえまともにできないのか、頭をかがめ、絞り出すように言葉を吐こうとしていた。
ライラは立ち上がり、ロギの肩に手を置いた。そして、彼の目の前に一枚の紙片をそっと差し出した。

字が書いてあった。懐かしい筆跡だった。
それはソルから妻に宛てた短い手紙。

「ソルはね、いつもそうしてたの。冒険の途中で書けるときに書くの。もし自分が死んだら僧服の帯の中を見て欲しいって、いつも言ってた。私に伝えたい言葉がそこにあるからね、って」

その紙片にはこう書かれていた。

『万が一僕が死んでロギだけ生き残ったなら、彼を赦してやって欲しい。最愛なる僕の妻、ライラへ。永遠に君を想う』
ロギの肩に置かれた手が震えていた。ライラは笑っていた。
「バカよね……ソルらしいけど。どこまでも……バカで……憎たらしいくらい、真っ直ぐで……」
ふふふと笑いながら、ライラは口元を抑え、目元を拭い、涙を散らした。

ロギはその水滴がテーブルに舞い落ちるのを見て、その雫の輝きがぼんやりとぼやけるのを見た。
何故急に視界がこんなにぼやけるのだろうかと、場違いなことをロギは考えた。ああそうか、自分もまた、涙を流しているのか。そう気づいたのはもっと後になってからだった。

やがて、庭にいた二人の子どもが部屋に入って来た。遊び疲れたのか、眠そうな目を擦りながら。
ライラは二人を手招きし、涙を拭ってこう言った。

「この子たちは私と、私の自慢の、大好きな、バカなあのひとの子どもたち。こっちがソーリャ、こっちがライル。双子の姉弟なの。よく似てるでしょ」

自慢げにそう語るライラの笑顔は、この地上で最も幸せな人間は誰かという問いへの答えででもあるかのように輝いていた。

「このひとはロギおじさん。あんた達のお父様の……親友よ」

ライラが続けたその言葉を、ロギは女神からの神託であるかのように、ただそのまま、ありのまま、胸に沁ませた。

「そろそろお昼寝の時間ね。……ねえロギ、歌ってやって。この子達にあの歌を」
女神がそう請う声が聴こえた。

「歌えませんよ。もう6年も……」
ロギはライラに、そう答えた。それから少し思案して、

「……でも、貴女がたのお願いであれば、断れませんか」
と、観念した。
それから彼は眼を閉じて、まだ少し震えの残る声で、一生懸命に、

懐かしい歌を紡いだ。

魔導師Lv18の物語 第5~最終話

第5話

それから二人は二人だけで旅を続けた。
魔犬の気配はどこまでも追ってきた。軽率に襲い掛かっては来ない。ロギ一人が相手ならそうしたかもしれないが、明らかに僧侶と思われる相方がその背を守っている。
魔犬は僧侶とは相性が悪い。破邪結界を張られただけで手が出せなくなるからだ。故に魔犬使いディルマは、彼らの油断と消耗を取り敢えず待つことにした。時間はまだ、ある。

そう、いつまでも時間がある訳ではなかった。トゥマのさらに北、国境を抜けたならそこはバド=アイド連合領の領内になる。そこで厄介事となれば、「紅鷲」が黙っていない。ディルマが追えるのはその境まで。ロギもそれを解っていた。だから隊商が進んだルートを外れ、最短距離で国境を目指すルートを採った。良い判断だった。しかし運は彼の味方ではなかった。

「来たか……」
ディルマはそう呟いた。
「……道理で寒い訳だ」
ソルは空を見上げてそう言った。

雪が、舞い落ちていた。

冒険者にとって最も厄介なものは何かという問いの答えは多岐に渡る。ある者は魔物と言うだろうし、ある者は人間だと言うだろう。またある者は自然だとも。
どれも正解だ。それぞれの冒険者には得手不得手があり、目的も行動範囲も異なるのだから。が、そんな彼らは概ね、次に厄介なものは何かという問いに、こう答える。
重さ、だと。

装備の重さはそのまま冒険者の負担となる。馬や従者をどれだけ用意しても、それらを維持する装備がまた増える。管理の手間もだ。故にどんな冒険者も無限に装備を増やすことはできない。
ロギとソルは雪山を踏破する装備を持ってはいなかった。隊商には最低限の装備があった。しかし今はない。
無論彼らは魔法という便利な術を身に着けている。凍てつく寒さから身を守り、雪道を専用のブーツ無しに踏み越える術式も存在する。
しかしロギは得手ではない。彼は戦闘に特化した魔導師であるその身を呪うことになる。ソルは問題なく魔法を用いて歩を進めるが、ロギはおぼつかない。

「……いいよ。僕がやるから」
「しかし……」
ロギは断ろうとするが、そこに意地や見栄はなかった。既にその域の問題ではなかった。例年より十日ばかり早い降雪は徐々に彼等の視界と足場、そして貴重な魔力を消費させてゆく。頼るべきものは互いだけ。国境は近いが、あと最低一つは山を越えなければならない。

ディルマは使いの犬から彼らの状況を把握し、襲撃するポイントを定めた。獲物は既に、彼の仕掛けた罠の中にあった。

***

「君の理由は?」
「私の?」
「そう、何で僕でなきゃいけないと思ったのか聞かせてもらえるかい?」
ソルは問いかけていた。先日、ライラを巻き込んでまでロギが自分を仲間に引き入れようとした理由を。

「……貴方が優秀な僧侶であり冒険者だからですよ。シグラでの戦いでそれを誰よりも知ったのは、他でもない私です」
「それは光栄だけど、本当にそうなの? 思えばあのときから君は随分僕に肩入れしてくれてた気がするけど……」
ソルがそう言い、言葉を切った。ロギは観念し、告げた。
「……5年前。ロジマ領に私はいました」
「え……」
「そうです。カーマヤ正規軍、ソル戦士長。私はあのとき、貴方の敵方で戦っていた魔導師部隊の生き残りです」

 

第6話

ソルは元々、正規軍兵士の家に生まれ育った。剣と槍を学んで育ち、やがて父親同様の戦士として軍に入った。ある意味エリートだった彼は、カーマヤとロジマの小競り合いが起きた際、初陣ながら20人規模の小隊の戦士長を任されていた。
ソルは懸命に、勇敢に戦った。戦局は彼らの優勢ではあったが、それはロジマにとって想定の範囲内だった。この小競り合い自体が外交のカードでしかなかったのだった。
カーマヤ軍がロジマのある区画を占拠する間に、ロジマの別動隊が他の区画を占拠。トータルで痛み分けとし、和平。それらは筋書きの通りだった。
悲惨だったのは両の兵士達である。特にロジマのある一部隊はカーマヤ軍に攻囲され、無残にも全滅した。その部隊の生き残りが……

「あのときの?」
ロギは無言で頷いた。言われてソルは気づいた。確かに捕虜とした魔導師の中に、ロギと同じ面影があったかもしれないと。

「そういうことです。私は貴方に恩がある。あの修羅場で貴方だけが冷静に判断を下し、私達捕虜を殺すことなくロジマに帰還させた」
「当然のことをしただけだよ。上からの指示で」
「あの状況で? 伝令もロクに走れない泥濘の谷底でそんな指示が? それを順守した? それを当然と言い切れるならやはり貴方は私が選んだ通りの人ですよ。……今度は私の質問です。何故剣を捨てたんですか?」
「即答してもいいかな」
「どうぞ」
「もうこりごりだったからさ。分かるだろ、あの修羅の巷にいた君ならさ」
「……ええ」

その馬鹿げた戦闘の後、ソルは剣を捨て、家を出た。教会に入り、神学と魔法を学んだ。自らの足で路を探すために冒険者となった。その路が血に濡れてないとは思わなかった。ただ、国の思惑で左右される人生からは距離が置けたと思った。
そしてシグラ市に行き着き、街を護っていた、まだ少女と言っていい歳の戦士ライラと出逢った。互いに傷を持ち、それでも懸命に生きる路を探す二人は、手を取り合って生きることを誓った。

「冒険者としての目標レベルを決めたのもそれが理由だよ。ただ、辿り着く場所が欲しかっただけなんだ」
雪を踏みしめ歩きながら、ソルはそう言った。
「なら、なおのことこんな場所で私を助けてる場合じゃないでしょう」
ロギはそう再度言った。

「もう遅いよ」
ソルは振り返って、笑った。

雪深い坂道。視界を遮るもののない開けた場所。その周囲を、30頭の魔犬が囲っていた。僧侶と魔導師、二体の獲物を中心として。

 

第7話

魔犬に囲まれた場合、僧侶のセオリーはまず破邪結界を張ることだった。そこから威嚇や、他のメンバーによる遠隔攻撃で蹴散らす。可能ならこれが最善手だ。
しかし開けた場所で遠隔攻撃を得意とするロギがいながら、その戦法は使えない。理由は単純。魔力の残量が最早乏しいからだ。
この戦闘を勝ち抜いたとしても、山を下りる際に必要な魔力が残らなければそれは死を意味する。故に結界を張って魔犬を近寄せないという戦法は捨てざるを得ない。
近接戦闘で殲滅、或いは魔犬の使い手であるディルマを排除する。そのどちらかしか採る手立てはない。

二人はディルマの罠に完全に嵌り込んでいた。しかし逆に、当のディルマからすれば完璧な罠とは言い難かった。獲物の魔力残量は外から幾ら見ても、結局は想像に頼る他ない。
国境までの距離、ディルマ自身と、彼の犬たちの体力、地形、それらを考慮しての仕掛けとしては、今が最大の好機と思えただけだった。
結局は最適解だったと言えたのだが。

(「かかれ…!」)

ディルマが魔犬達に指示を出す。先鋒は6頭。素早く散開した後、タイミングを合わせて各方位より飛び掛かる。獲物は二人。その手は合わせて4本。並みの相手ならそれだけで片が付くが、相手が並でないことはディルマも犬達も心得ていた。

突然、1頭の魔犬が脚を取られ、雪原に転がった。同時にロギの魔法が雪を散らし、比較的近い距離で固まっていた犬を3頭宙に舞わせる。タイミングを外され、残る2頭は攻撃行動を中止。
爆発魔法はロギの十八番であり、その精度も威力もディルマの勘定に入っていた。準備は周到。だから宙を舞った犬達も大したダメージはない。
だが最初に転がった1頭には一体何が? 攻撃を受けた様子もないが、脚を引きずっている。

(「やはり手練れの僧侶か…。やっかいかもな」)

魔犬4頭の陰に隠れた位置から、ディルマはロギとソルの力量を測る様に状況を眺めていた。戦闘経験豊富な彼は、先の一合でソルが雪原の何箇所かに物理結界を設置済みなのを把握した。なるほど、小さな物理結界なら破邪結界を維持するよりは魔力消費を抑えられる。
だがそれはそれで手の打ちようが……とディルマが思うより先に、ロギが動いた。戦闘用の杖を携帯できていなかった彼は、樫の棒を一本、杖代わりに構えていたのだが、それを雪原に突き立てて手を離すと、素早く、しかし大きく息を吸った。

音に力を乗せて飛ばす。
音は空へと溶けて行く。

リュートも持たない吟遊詩人の、無伴奏の歌が周囲を満たした。ソルはあらかじめ耳を塞いでいるが、犬とディルマは違う。
まともに聴けば10秒で眠りへと落とされるロギの催眠魔法歌唱。それが効果を発揮する……はずだ、というタイミングで、ディルマもまた動いた。

弾かれた様に、ほぼすべての魔犬がその場にて宙を仰ぎ、吠えたてる。ディルマは当然、ロギの魔法歌唱というカードの存在を事前の情報で知りえていた。故に吹いた。魔犬を操る緊急の手段であり合図であった犬笛を。それに応じて咆哮する犬達。ロギの歌はその音に効果を著しく減ぜられる。それでも数頭は激しい睡魔に襲われ、身を低くし、動かなくなった。

(「想定通り、上等だ…!」)
ロギも、そしてソルも同時にそう考えた。この一瞬が勝負だった。ソルは跳び、そして駆けた。柔らかな雪の上を、大股に、何でもない普通の靴で。
雪原にあらかじめ配置しておいた物理結界の位置を、ソルは無論把握していた。ロギと昔話に興じていたそれなりに長い時間を無為にする訳もなかった。罠に嵌めたはずのディルマは、5秒後に知った。罠に嵌っていたのが自分であったのを。

本来人間に懐かない魔犬に指令を送る方法は幾つもある。だが遠隔から最も効率的にそれが行えるのは魔力付与を行った犬笛であり、犬達が激しく吠えているこの瞬間には精度の高い指令は送れない。ロギが単独であったならほぼ確実に勝てたであろうディルマは、有能なたった一人のパートナーの勇敢なる疾走に対し、今一歩遅れを取った。

「王手詰みです。犬を伏せさせて」
至近距離で発動した破邪結界により、魔犬の囲いを引き剥がされたディルマの胸元に槍を突き付けて、僧侶ソルはそう告げたのだった。
第8話
ディルマは一度受けた依頼を無断で放棄するような輩ではない。それは彼の信用に関わるからだ。故に彼は、ロギを始末するために全力を注いだ。
しかし叶わなかった。ならば彼の任務は失敗であり、失敗であるならそれは認めねばならない。

「分かった。降参する」
魔犬使いはそう言った。その言葉に偽りはない。ソルの了解を得て一度だけ犬笛を吹き、犬を黙らせてその場に伏せさせた。ロギの歌は、彼らを簡単に眠らせた。
ディルマもまた眠らされ、その場に縛られて置き去られた。あとは運だ。凍死するより先に目覚めることができれば、命くらいは助かるだろう。

ロギとソルは先を急いだ。追手の影はもうない。思いの他魔力を消費してしまったが、残りの行程であればギリギリで冬の山地を踏破できる。
その計算に誤りはなかった。正しい計算だった。つまり、ギリギリだったのだ。

数十年に一度という規模の吹雪さえなければ、彼らは無事に、ライラの待つバド=アイドの集落に辿り着けていたのだから。
***
ロギは目を開けた。何も見えなかった。
ただ闇だけがそこにあった。

しかし声が聴こえた。問う自分の声と、答える彼の声。

ただ振動を感じた。身体が揺すられ、体重が前へ前へと移動して行くその振動を。

体温を感じた。自分の身体を背負い、雪の中を這うように進むソルの体温を。

「生命とは、それだけの価値があるものなんですか……?」
「それは君が……決めたらいい」
「魔物と……獣と……魔族と人間。……敵と、味方との……その差は?」
「それも……君が決めるんだ……」

吹き荒ぶ雪の嵐の中で、互いの声がなぜか、はっきりと聴こえた。それだけ距離が近かったのだ。動けなくなったロギを、ソルは残る体力と尽きた魔力の残滓とで、必死になって冷気から守りつつ、運んでいた。彼と彼等との辿り着くべき場所を目指して。

「ほら……ね。言ったろ? 僕は君を……助けに来たんだって」
突然、勝ち誇ったような声。ロギは確かにその声を聴いた。
ただ闇だけがあったはずの彼の目の先に、仄かな灯りが見えた。人家の灯りが。

ソルと、ロギとは、遂に踏破したのだ。トゥマの山地を。冬の障壁を。
そしてロギは、ソルのその高らかな勝利宣言に答えることなく、開いていた眼を、静かに閉じたのだった。

 

最終話

夢だったのだろうと彼は考えた。コントラストが強すぎたのかもしれない。
あまりにも冷たく凍てついた闇の次に、彼が感じたのは優しい灯りと暖かさであったから。
天窓から日差しが降り注いでいた。動くこともできないまま、彼はただ、それを眺め、そしてまた、眠りについた。

***

声が聴こえた。「目が覚めたのか、良かった」そう喜ぶ声。聞き覚えの無い、しかし優しい老境の男性と、同じく老いた女性の声。
答えることのできないまま、彼はまた眠りに落ちた。

***

口を暖かい何かが通り抜け、喉を通り、体内へと落ちていった。少しずつ、少しずつ、彼は自分の命がまだあることを感じ始めていた。

***

目が「彼」を探した。「彼」は見つからなかった。

***

声が、漸く、空気を震わせることを許した。
彼は呼び、問うた。答えは、なかった。

***

心が重い。

***

何も考えられない。
***
そして彼は、再三問うた。優しい老紳士と、逞しい老婦人に。
震える声で、確かに、問いかけた。

「私の、大切な友達は、どうなりましたか?」
と。

老紳士は思案して、彼の心ができるだけ落ち着くのを待ってから、優しい声でこう答えた。

「残念だが、亡くなってしまっていたよ」

と。

魔導師Lv18の物語 第4話

カーマヤの城下町から北方へのルートは限られている。急峻な山岳地帯を踏破するのは困難であるためだ。
それ故、交易及び連絡に使用される街道は領主によって保護と整備がなされ、隊商は必ずそこを通ることになる。
逆に言えば、隠密裏に物資を運搬するといった用途には別のルートが使用されるということでもある。
ただ、どのルートにせよ、トゥマ通商ギルドの手が伸びない場所はない。「紅鷲」独自のルートもなくはないが、海路を利用する極めて大回りなもの程度。

ソルとロギは、敢えて中央街道を行く隊商に紛れるルートを選び、トゥマを抜けてライラの待つ北方のバド・アイド連合領を目指していた。
サウランは目論見どおり失脚したものの、トゥマ通商ギルドは裏切り者であるロギを許さない。故に彼は逃げるしか手がなく、ソルはその逃走を手助けする他ない。

「なぜです?」
「僕の不可視魔法も治癒魔法も、痕跡と斑紋が残ってる。捕まりたくない」
「ではなくて、なぜ私を助ける義理が?」
「君は僕の恩人で、君は今とても困ってる。だから僕は助けたい。何より、僕は君の友達だからだ」
「……勝手にしてください」
隊列の最後尾を歩きつつ、周囲への目を光らせながら二人はそう呟きあった。

「……あの陰、犬がいるね」
「……確かに。魔犬ですか?」
「かも知れない。……先頭へ伝達。『左手後方に魔犬らしき物潜む』」
ソルが近くにいた隊員に告げる。やがて一行は足を止めた。魔犬が相手であれば、逃げてどうにかなるものでもない。逆に、追い払うのは容易なはずだ。野生の魔犬であれば。

***

トゥマ通商ギルドはロギをそれほど熱心に追ってはいなかった。サウランとの繋がりを知る者は上層部のごく一部に過ぎず、ロギ本人は金や権益を横領したわけでもない。姿を消すならば勝手にしろというのが本音だったし、紅鷲の情報もそうソルに伝えていた。冬の旅装でローブとフードを深く纏い、杖もリュートも携帯していなければ誰もロギを見咎めない。そしてトゥマ市を後にし、山を数える程度越えればバド・アイドとの国境は目前だった。

ディルマさえいなければ。

魔犬使いディルマはギルドではなく、サウランの手の者から直接依頼を受けていた。そして受けた以上は、その依頼を果たすのが彼の務めであり、信条であった。
彼の使役する魔犬は30頭に及ぶ。野生の魔犬とは違い、爆発も炎も恐れない。寒さにも強く、何より鼻が利く。ロギを追い、仕留めるのにこれほど適した人材は稀有だろう。

季節は晩秋。北方へ向かう陸路の隊商は、冬になると翌年の春までは途絶えてしまう。盆地であるトゥマを囲う山々は次第に雪化粧を纏い、日に日に踏破を困難としてゆく。時期的には今が最後のチャンスだった。
つまり、北へ逃げるとギルド側が予見していれば、当然トゥマ市周辺でロギの通過を阻もうとする。ロギもソルも、それは心得ていた。遂に来たかと身構えた。予想はそこまでは完全に当たっていた。

しかし何も起きなかった。

「……来ない?」
「成程、上手いことをするね……」
魔犬は襲い掛かって来なかった。数刻の後、警戒を続けたまま隊は前進を再開した。しかし再度、今度は一行の右手前方に魔犬が数頭確認された。止まる足。しかしやはり、襲っては来ない。
それが繰り返された。戦闘は一切起きず、隊商に一切の損害は出なかった。損害がない? いや、確かにそれは損害だった。

予定の半分も進めない場所で、隊商は野営を余儀なくされた。痛い損失だった。貴重な時間の出血だ。彼らは経済活動を行う商人たちの群れなのだから。
野営の最中にも、魔犬の独特な咆哮が、左程遠くない闇から響いた。
ロギとソルは交代で警戒に当たりながら、その咆哮の意味する所を否応なく考えた。

朝、いつのまにか隊の鼻先に小さな紙片が置かれていた。石が積まれていたその紙の端にはご丁寧に魔犬の噛み跡。
その隊商の長であるケイムは、書かれていた文章を皆の前で読んだ。その内容は
「吟遊詩人ロギにのみ用がある」との一言だけだった。

ソルが抑えようと思ったときにはもう遅かった。
黒髪の吟遊詩人はフードを脱ぎ、一歩前へ出て「私のことです」と一言告げた。

ケイムは立派な商人だった。契約を重んじ、勇敢でもあった。臨時とはいえ隊商のメンバーが厄介事に巻き込まれているのを早々に見捨てる真似は本来しない。
隊の他のメンバーも、こう愚弄されてはいそうですかとロギを差し出すような情けの無い連中ではなかったのだが。

「申し訳ないが、ここで隊を抜けます。違約金はこれでいかがか?」
「ロギ……」
ソルは相方の早計な言動に反論を試みようとしたが無駄だった。ロギは本来思慮深い人間なのだが、非常に頑固でもある。
ケイムは商人である以上、金銭での取引は損得で勘定せざるを得ない。結局、ロギの意思は尊重された。彼は隊を抜け、その場に留まることとなった。

「何度めなのかもう忘れましたが、もう一度聞きます。なぜです?」
「……こっちが聞きたいよ」
ロギの問いにソルが応えた。彼らが属していた隊商は既に目の前の林道に消えていった。見晴らしのいい岩場に残っているのは彼等だけ。

「言ったろ、僕は君を助けたい」
ソルは背中越しにそう続けた。無論、彼も違約金を支払い隊を抜けたのである。